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訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました)
訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました)
Author: 風野うた

満月の夜 1

Author: 風野うた
last update publish date: 2026-03-04 17:58:49

 ニルス帝国の王都にある下町、ヤドリギ横丁の『レダの家』の看板に明かりが灯った。『レダの家』は占い師レダが営む“占いの館”でかなり古くから、ここに存在している。

 噂では数百年前から営業しているといわれているが、店主レダは占い以外の話には一切応じないため、確認のしようもない。結果、この噂は都市伝説扱いとなっている。

 また占い以外にも、レダは魔法が使えるといわれているが、その力を見たという者は居なかった。それ故、レダが魔法使いなのかという話も真偽が分からない。

 そして今、店内では黒いローブを目深に被った占い師レダが、薄暗くなって行く窓の外を眺めながら、深いため息を吐いている。

「レダ様、どうされたのですか?」

 見習いのキュイはレダのフードを引っ張って、彼女の顔を覗き込んだ。

「キュイ、今夜は満月でしょ。あの御方と約束した日なのよ」

 姿とは似合わない、可憐な声で答えるレダ。

「レダ様!声っ!」

「あっ、ごめんなさい。声色を変えるの忘れていたわ!」

 レダはキュイに謝ると一度、咳払いをしてからブツブツと呪文を唱え始めた。キュイは静かにレダを見守る。

「これで、大丈夫よね?」

「はい」

 この占い館の主であるレダは少々ワケありで、フードを目深に被って、顔を隠し、声色を変え、年齢も誤魔化している。

 一番の理由は客からナメられるから。―――というのは、言い訳で本当は大きな理由がある。

(今のところ、師匠と私が入れ替わっていることを、誰も気づいてないのよね。このまま、師匠が帰ってくるまで隠し通せたらいいけど……。大体、師匠の用事って、いつ終わるの? もう出かけてから半年以上経つし……)

 いうまでもなく、占いの館へ相談に来る者たちは厄介な悩みを抱えている者が多い。しかし、ここにいる身代わりのレダは占い師の修行もしたことが無い、ズブの素人だ。

 今のところ、訪れた者のお悩みを聞き、相槌を打って、頑張りを褒めたたえ、励ますという流れを繰り返し、何とか乗り切っている。

 しかし、自分が師匠(レダ)でないと、相談者にバレたらどうなるのか。

(今更だけど、余りにも安易に引き受け過ぎたわよね。それと師匠が私に成りすまして何をするつもりなのか、あの時にしっかり聞いておかなかったのは失敗だったわ)

 そして、その身代わりのレダの前に、やんごとない身分の大物が現れたのは、つい先日のことだった。

♢♢♢♢♢♢♢

――――今から十日ほど前の出来事である。

 突然『レダの家』に現れた(やんごとなき身分の)大物客は、躊躇なく店内へ入って来た。そのまま、店主レダに歩み寄り、彼女を上から下まで遠慮なく視線で辿る。レダは緊張のあまり挨拶をするのも忘れて立ち尽くしてしまう。

 しばらく沈黙が続き、先に口を開いたのは大物客の方だった。

「次の満月の晩、ここに泊めて欲しい」

 大物客、もとい銀髪で見目麗しい男は、唐突にとんでもないことを口にする。レダは一見、平静を装っていたが内心かなり動揺していた。

(こ、ここに泊まるですって!?)

 男はスラッとしていて、背が高い。

 且つ、しなやかな身のこなしから、身体をしっかりと鍛えていることが分かる。意志の強そうな瞳の色は紫と紺色が混ざったような独特な色。身なりはレダと同じく黒いマントを羽織っているが、薄暗い店内の明かりでも上品な光沢を帯びていることが見て取れた。これは、素人目でも高価な布地を使用していると分かる。また、マントの袖口やフードの縁には精巧緻密な刺繍も施されていた。

 一方、レダのマントは師匠から借りているマントである。そのため、寸法は合っていないし、布地には歴史を感じさせる毛羽立ちがあり、とてもじゃないがオシャレとは言えない代物だ。

 しかし今、レダはそんな身なりの違いに気を回す余裕などなかった。先ほど(やんごとなき身分の)大物客が放った相談内容に首を傾げているのだ。

(それって、相談じゃなくてお願いごとじゃない? 一体、どういう……)

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